オーディションの最大限化に向けて
二0一0年夏。
0三年七月の実質固有化から七年余、三大メガバンクの陰に隠れて、その存在感が薄くなっていた、R(HD)が、金融再々編の目玉として再び浮上した。
公的資金完済への道筋が見えてきたからだ。
RHDは最大で三兆一二八0億円の公的資金を抱えていたが、これまで買い入れ消却(利益剰余金を取り崩して減資すること)などで返済して、残高は二兆八五二億円まで減った。
しかし、二00九年度(一0年三月期)は金融当局との交渉がまとまらず、残高を減らすことができなかった。
会長のHは、二0一0年五月中旬に複数の全国紙とのインタビューで、同年二月に予定している新たな経営健全化計画の策定前に、公的資金の一部を返済すると明言した。
返済額は最大で四000億円程度になるという。
Hの前向きな発言から、金融関係者は、Rは公的資金完済のメドをつけつつある、と受け止めた。
R株式の四四・一%を持つ金融当局との交渉の過程で最大の焦点となったのは、政府(預金保険機構名義)が保有している優先株の価値をどう評価するかという点だった。
政府は、市場で売却可能な普通株(約二六00億円)のほかに、約一兆八000億円の優先株を保有している。
従来は、国民の負担を回避するという観点から、公的資金の注入額にある程度上乗せした金額(二0、三0%程度の金利相当分)を返済するのが通例だった。
Rは、H会長の「秘蔵っ子」とされるH・HD副社長が中心となって、金融庁や預金保険機構との間で返済条件について協議してきた。
R側は、「リーマン・ショック後の欧米当局の注入例を見ても、国民に負担が生じない場合は、元本のみの返済が認められている」と主張し、元本のみの返済を求めたが、この交渉がまとまらなかった。
これが、RHDが二0一0年三月期に、公的資金を返済できなかった理由だ。
Hが二0一0年度上半期(一0年四|九月)中に公的資金の一部返済を明言したことは、Rが主張する返済条件で金融当局と話がついたという意味である。
デフレ下での株価低迷を考慮し、政府も注入額を下回らなければ返済を受け入れる姿勢に転じたのだと、関係者は理解した。
政府が、「上乗せ」なしを認めたことで、N銀行(福岡市)とR銀行(那覇市)は二0一0年五月二四日、資本増強のため早期健全化法に基づき国から注入を受けた公的資金の全額返済を申請すると発表した。
N銀は三五0億円、R銀は六0億円の公的資金が残っていたが、同年九月までに政府保有の優先株を、上乗せゼロで買おい戻して、消却する。
公的資金の返済を了えた銀行からは「不公平だ」との非難が起きた。
RHDは二0一0年三月期末時点で、利益剰余金を公的資金残高(約二兆円)の七割に当たる一兆三七二一億円、積み立てている。
元本に三割程度のプレミアム(割り増し金)を上乗せしなければならないのであれば、現在の利益剰余金ではとても足りないが、返済条件が大幅に緩和されたため、公的資金完済のメドがたつたのである。
優先株の元本は約一兆八000億円。
剰余金との差額、四三00億円は、他の大手金融機関との資本提携をテコに返済するという。
傘下の関西の地方銀行の売却があるかもしれない。
H会長が、「提携や再編を排除しない」と述べたのは、こういう思惑があるからだろう。
実質国有化から抜け出すことになる公的資金返済の出口が見え始めるとともに、Rを軸にした、関西地区での金融再々編の観測が浮上した。
RとMSの合併説R統合に動いたのが、MSフィナンシヤルグループ(FG)である。
過去には、MSの前身である旧・S銀行による、Rの前身の一つである旧D銀行の買収が何度も取り沙汰された。
結局、S銀はS銀行(旧・M銀行)と統合しMSFGに、D銀はA銀行と統合して、RHDとなった。
Rが実質固有化になってからも、MSがR買収の有力候補であったことに変わりはない今、MSFGはグローバル・プレーヤーになることを狙っている。
MSFGは、二0一0年二月にニューヨーク(NY)証券取引所へ上場する方針だ。
NY証券取引所には、MUFG、MFGも上場しており、これで、国内三メガバンクのNY上場が出揃うことになる。
MSは米国で投資銀行ビジネスを拡大するため、金融持ち株会社(FHC)の資格を取得する。
FHC取得をテコに、米国でも社債・株式の引き受けなど証券業務を拡大する。
FHCの資格は、MU、M、N金庫が既に取得している。
MSはNY上場を機に、グローバル・プレーヤーとして成長市場のアジアだけでなく、米国でも事業の拡大を図る方針で、米国の地方銀行などのM&A(買収)も視野に入れている。
MSの成長戦略のもう一つの柱が、国内での金融コングロマリット化だ。
銀行・証券の一体化では、D証券グループ本社に逃げられたが、N証券を手に入れた。
Nを強化するために、物心両面(人材とカネ)の投資を惜しまない。
MSが金融のフルラインで欠落しているのは、信託銀行の分野だ。
S信託、中央M信託に袖にされた。
そこで、信託部門を持つ、Rの取り込みを図るというので、MSは、Rに買収の第一関門といえるプロポーザル(提案)を書面で出した。
しかし、交渉は一時、暗礁に乗り上げた。
Rは約二兆円の公的資金残高を抱えている。
焦点は市場で売却可能な普通株(元本約二六00億円)のほかに保有している約一兆八000億円の優先株の扱いだ。
この優先株をMSが取得するにあたって、当初、金融庁はプレミアム(割り増し金)を求めたという。
金融当局は、これまでも、一般的に「注入した公的資金に三0%を上乗せして(金利分を)欲しい」と要求しているから、優先株を買い取るために必要な額は五000億円以上膨らむ。
これが、交渉が暗礁に乗り上げた理由だ。
ところが、金融庁は柔軟姿勢に転じた。
優先株の元本のみの返済に0Kのサインを出した。
これで、Rが公的資金の返済の道筋をつけた。
N銀、R銀が公的資金の完済に踏み切ったことは、既に述べた。
ということは、MSも動けるということだ。
K金融担当相(当時)が、本人は否定しているが、「MSに、R買収を耳打ちした」という噂が、金融界の首脳の聞を、トップシークレット扱いで駆け巡る。
金融再々編の幕が上がる。
最初に舞台に上がるのは、MSと、Rである。
二0一0年六月一日時点の時価総額は、MSが三兆八000億円で、Rは一兆四000億円。
合算すれば、五兆二000億円になる。
これはMUフィナンシャル・グループ(FG)の六兆二000億円に一兆円及ばないが、MFGの二兆五000億円のほぼ倍だ。
MSにとって、Rは魅力的なターゲットといえそうだ。
これまで見てきたように、Rは実質的な固有化から、ようやく、抜け出そうとしているのである。
時計の針を七年前に巻き戻す。
Tが敷設した地雷を踏まされた二00三年五月一七日の夜。
政府は、R銀行と持ち株会社、Rホールディングス(HD)が経営危機に陥ったのを受けて、預金保険法一0二条に基づく「金融危機対応会議」(議長はK・首相当時)を首相官邸で初めて聞き、グループの中核銀行、R銀行に二兆円規模の公的資金を注入することを決めた。
Rは事実上、一時、固有化された。
K首相は「金融危機を起こさないための措置だ」と強調。
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